探究(課題研究)へと至る3つのステップ―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】8

探究(課題研究)へと至る3つのステップ―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】8

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)「 探究的な学習」の3段階構造

「吹き抜け」モデルを念頭に、探究の授業カリキュラム(以下、「探究」カリキュラム)として理想的な構造はどのように考えられるでしょうか。

探究の最終目的地は「課題研究」として1人ないしはグループで研究活動を行なうことです。問題はその前段階です。突然、「課題研究をせよ」と言われても難しいでしょう。大学生でも卒業研究の前にその準備段階の授業を3年近く受講するのです。当然ながら課題研究の前には準備として、課題研究を行なうための「スキル(技能)」を身につける授業あるいは課題研究の題材となる「知識」を理解・獲得する授業が必要です。

このような「準備」段階と「課題研究」段階の2段階があるのです。

しかし、じつは「課題研究」の内部にも、もう2層の構造が考えられるのです。課題研究は学習者自身が「課題」を設定することがあります。「課題」には学習者の主体性やオリジナリティが出るため、その後の検証の前に課題を設定する時間をきちんと取ることが重要になります。これを「課題設定」段階と呼びましょう。

そう考えると「探究」は、「準備」段階(「知識習得」/「スキル習得」)─課題研究段階(「課題設定」─「課題検証」)という3段階構造のカリキュラムが構想されるのです。

(2)「 課題設定」と「仮説」を作ること

探究で学習者がつまずきがちなのは、「課題設定」の段階です。この課題設定とはどういうものなのでしょうか。単純に自分の探究テーマを決めることなのでしょうか。エネルギー問題が話題だから課題を「太陽光発電」と決めて、それで課題設定といえるのでしょうか。まだまだ不十分です。

課題設定というのは探究を行なううえでの「問題設定」のことです。そこでは先行研究をレビューしながら、ある事柄についてわかっていることとわかっていないことを明確にし、わかっていないことを提示し、それが検証するに値することを説得的に語らなければいけません。

そのうえでそのわかっていないことを検証していくのですが、ここで導入されるのが「仮説」というものです。

たとえば、「太陽光電池」の素材に使われているAという物質は高価であることがわかっている。そこで、より安価なBという物質を用いるとコスト面で優位になると仮説を立てたとします。ここでの探究活動の目的はこの仮説の検証になるでしょう。そうなるとAという素材とBという素材で作った太陽光電池の発電量を比較し、コストパフォーマンスを導き出し、仮説が正しかったか、検証することができます。

(3)「 仮説」を考えるのは難しい

このように「仮説」を用いることにより探究がしやすくなるわけです。しかしながら、仮説を考えるというのは大人にとっても難しいことなのです。

仮説を検証するというのは非常に論理的で科学的なプロセスです。一方の仮説を生み出すというのはじつは論理的というよりは飛躍的であり、創造的なプロセスなのです。

外に出たときに地面が濡れていた。そういえば、雨が降ると地面が濡れるなとあなたは考えます。今、目の前の地面が濡れています。そこで、雨が降ったのかなと推測します。

あなたが持っている仮説は「今さっき雨が降った」ことです。しかしこの仮説を導き出したプロセスは論理的なものではありません。なぜなら地面が濡れるのは必ずしも雨が降ることによってのみではないからです。隣の人が水をまいたのかもしれません。

このように目の前で起きた現象を説明するために仮説を導き出す方法を「アブダクション」(文献1)といいます。仮説を作るというのは、飛躍的で創造的な思考を求めるのです。

1)米盛裕二(2007)『アブダクション─仮説と発見の論理』勁草書房
 アブダクション―仮説と発見の論理

シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】カテゴリの最新記事