学びの引き出しを増やそう―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】20

学びの引き出しを増やそう―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】20

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)「 学校外の学び」から学ぶ

学習方法を意識するからといって特定の方法に縛られる必要はない。しかし、参考になる方法は欲しい。これに応えてくれるものは、学校現場の外にあります。たとえば、多くの情報を整理する情報整理術は企業教育の現場に蓄積されています。コミュニケーション能力を高めたり、グループ全体のコミュニケーションを促したりする方法は心理カウンセリングや人間開発の分野で研究されてきました。

また、近代社会において1人の教師による一斉授業というものが出来上がるより以前、つまり、「学校」というものができるよりも以前の社会では人びとは知識詰め込みとは異なる、より複雑で豊かな学びを体験してきたのです。

こう考えると「学校以前の学び」や「学校外の学び」のなかにヒントが隠されていると考えるのは妥当でしょう。「生きる力」の実質化のためには、「学校」という閉ざされた世界から飛び出して、外に広がっている学びの世界へとアクセスする必要があるのです。

 

(2)さまざまな「学校外の学び」

「学校外の学び」に、どのような実践があるのでしょうか。

「社会性」、とくにコミュニケーション能力をターゲットにしたものにはグループでのカウンセリング、グループエンカウンターといわれるものがあります。また、心理劇などの方法もあります。課題解決型学習として、たとえば、問題解決型学習(Problem Based Learning)などは企業教育や看護教育、医学教育などの成人教育の分野が蓄積を持っています。

これらの「学校外の学び」を学校という枠組みのなかでうまく組み入れている大学教育の蓄積もあります。グループで1つのプロジェクトに向き合い、リアルな文脈で問題解決を行なうプロジェクト型学習(Project Based Learning)などは大学の初年次教育(1回生向けの大学での学びの下地を作る教育)に取り入れられ、現在盛んに行なわれています。

ワークショップという方法も有力なアクティブ・ラーニングの方法です。これは市民活動や成人教育の流れをくむもの、あるいは博物館や美術館での鑑賞者教育などさまざまにあります。学校教育としては国際理解教育などのなかで用いられることがあります。

(3)「 学び」の捉え方を変える

「学校外の学び」は新しい学習方法の宝庫である以上に、「学び」そのものの捉え方を変える契機になります。

「正統的周辺参加」という理論に注目します(文献1)。この理論では、「学び」を「実践集団への参加」として捉えます。 たとえば、あなたが大工になろうと思ったとします。まず、見習いから始まり徐々に職人としての仕事をさせてもらいながら、周囲の人びとに認められて、大工集団のなかで花形の仕事を学んでいきます。このとき、「学び」は知識や技術の習得以上の意味を持ちます。

「正統的周辺参加」の「学び」は、学校の「学び」のあり方を根本的に見直すものです。学校での「学び」は社会と連結しており、学校が社会の周辺として存在するということです。

「新しい学力」は変化する社会からの要望という側面があります。つまり、社会の側が学校に社会に適応的な人間を作って欲しいと要望してきたということです。このとき、「学び」というのは上級学校への進学の手段ではなく、その先にある大人の世界へのステップとして理解できるでしょう。学校は「大人」になるための階段、「参加」の入口なのです。

(4) 社会のなかで必要なスキル

このように考えたとき、「アクティブ・ラーニング=主体的・対話的で深い学び」のイメージは大人の社会生活を思い出すとわかりやすくなります。コミュニケーション能力を鍛えることは大人においても重要な課題です。会社の研修で傾聴やアサーショントレーニングなどのトレーニングを受けることがあります。スケジュール管理なども大人の世界では重要なテクニックです。会議の仕方も重要です。これらは「新しい学力」における「社会性」を身につけるための学びにつながるのです。

授業にこのようなトレーニングを導入してもよいでしょう。しかし、それだけを単に行なっても意味はないのです。学校での学習内容と絡ませながら、発達段階に合わせて修正し、学習方法として利用するのです。単純に大人社会のなかで行なわれている活動をそのまま取り入れるのではなくて、それらを学校という特殊な文脈に合うように手直しするのです。

 

1) ジーン・レイヴ、エティエンヌ・ウェンガー(著) 福島真人(解説)(1993)『状況に埋め込まれた学習─正統的周辺参加』佐伯胖、産業図書。

 

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