*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の会員限定ショップへのご案内があります
(1)調べ学習から仮説検証へ
知識や体験を豊かにするためには「調べ学習」が効果的です。知識注入型の一斉授業やエクスカーション(野外調査や実地演習)も必要ですが、個々人の興味関心に寄り添う調べ学習は探究の前段階として有効なものでしょう。
調べ学習というと探究の初歩の初歩、ときには「幼稚なもの」と捉えられがちです。しかし、良質な調べ学習は、問いや仮説を作り出すことを促し、高度な探究の基礎となります。
私が現場で他の先生方とともに指導した体験から調べ学習と探究の接点を考えてみます。
①「宇宙」がテーマの調べ学習から仮説生成へ-事例1
あるとき、数名の生徒たち(高校生)が宇宙をテーマに探究をしたいと集まりました。教師は生徒たちが興味を示していた惑星について調査するようにアドバイスをしました。生徒たちは図書館やインターネットを駆使し、さまざまな調査を行いましたが、次第に各々が別々の惑星について調べ学習をするように分担が進みました。
生徒たちは惑星の特徴を理解しながら、「それぞれの星へ人類が移住するにはどうすればよいのか」という共通の問いを立てました。互いに調べたことから宇宙への共通理解を構築する一方で、それぞれの星にどのようにすれば移住可能であるのか、仮説を作っていったのです。こうして調べ学習は仮説作り(仮説生成)へと進んだのです。
②「自己催眠」がテーマの調べ学習から仮説検証へ-事例2
次の事例は調べ学習から仮説生成、そして、仮説検証への道筋を示しています。催眠術について興味をもつ生徒がやってきました。ひとまずその生徒には催眠術についての調べ学習を行うように指導しました。この指導によって1 枚目のポスターが完成しました。自己催眠と無意識に関する調べ学習だったのですが、生徒はますます催眠に興味をもち、次のステップとして自己催眠を体験することになりました。自己催眠体験をもとにしたポスターを作っているなかで、生徒は自己催眠が学習効果を高めるのではないかという仮説を考え始めました。こうしてひねり出された仮説が検証の段階に至り、20 名を対象にした心理実験へと発展していきました。
この事例では「調べ学習」から「仮説の生成」、「仮説の検証」という3 つの学習ステップがスムーズに展開することが見えてきます。
(2)調べ学習にとって大切なこと
ここで示した事例の学校は当時、研究指定校や大学付属校のように潤沢なヒト・モノ・カネがあるわけではなく、かつ探究を行う文化もとくにはありませんでした。
そのため、探究を行うにも実験器具や時間、指導者を必要とする「仮説検証」型の探究は難しかったのです。
その代わりに図書館の本や情報室のパソコンを使って行う「調べ学習」から始められる「仮説生成」型探究を選んだのです。実践を通じ、私も含め教師は探究指導のノウハウを学び、学校内に探究を行う教師同士のつながりが生まれました。このように探究の最初の一歩を調べ学習から始めると、教師側も順を追って指導ノウハウが学べ、じっくりと事例を蓄積できるのです。
調べ学習はインターネットの有象無象の情報をつなぎ合わせるもので学びとして低レベルだというイメージをもつ人もいるかもしれません。実際、このような質が高いとはいえない実践をしている学校が多く存在します。単なる「コピー&ペースト調べ学習」は、形ばかりの学習活動といえるでしょう。
そこには調べるプロセスや調べたことをつなぎ合わせるプロセス、そこから自分なりの考察を引き出すプロセスがおざなりにされています。形ばかりの学習活動にならないために、調べ学習において次のことが大切です。
①調べ方の学習……あるテーマについてどのようなアプローチで調査をすれば、そのテーマについて深く理解することができるのか。その方法論を学ぶこと。
②情報整理の学習……情報をつなぎ合わせる=知識や体験のネットワークから洞察を得るプロセスを学ぶこと。
③発表方法の学習……発表媒体の作り方(レジュメ、ポスター、レポート等)、そのための情報の処理の仕方、効果的な成果報告の手法を学ぶこと。
このように調べ学習においても、その後の仮説検証型探究につながるような重要な学習訓練を受けることができます。