探究(課題研究)へと向かう2つのカリキュラム―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】6

探究(課題研究)へと向かう2つのカリキュラム―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】6

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)カリキュラムの「二階建て」モデルと「吹き抜け」モデル

探究を高校3年間のカリキュラムとしてどう取り入れるのか、判断が分かれるところです。ここでは2つの代表的なモデル(カリキュラムイメージ)を紹介します。

1つは「二階建て」モデルです。これは現在の高校に最も適応したものです。 二階建ての一階に当たるのは1年生と2年生の授業です。よくあるスタイルとして、1年生ではライティングやプレゼンテーションなどのスキルベースの準備段階授業が行なわれます。

2年生(ないしは1年生の後半)から、自分の興味・関心に沿ってゼミ=少人数クラスに割り当てられ、課題研究が始まります。このときの活動単位は個人ないしは4人程度のグループです。中間発表等を秋ごろに行ない、レポートを作成して完結という流れです。

このモデルですと二階にあたる3年生次には受験勉強に専念できますので、知識詰め込み型の現在の大学入試に対して準備時間が取れる算段になっています。カリキュラムが断絶されていますが、建前上、「1、2年生で自分自身の興味関心を明確にした生徒たちは進学意識を高め、3年生の受験勉強に打ち込んでいく」わけで大きな問題は一見ありません。

他方でこの「二階建て」とは違う、階層性のない「吹き抜け」モデルも存在します。このモデルでは3年間連続で探究活動を行なうのです。たとえば、実業高校等の「課題研究」がこれにあたります。ここでの課題研究とは「卒業研究」のような意味合いがあり、専門カリキュラムの最終地点=3年間の集大成として存在するのです。

専門カリキュラムの集大成として存在する、つまり、「総合的な学習の時間」だけではない一般の教科教育もまきこんだ複雑なカリキュラム構造があるため、「二階建て」モデルのようにわかりやすい学習の流れを明示することは難しいです。さらに3年生の進路選択と卒業研究が重なるので、3年次の授業設定など、細かな工夫が生じ、学校ごとにさまざまな戦略が存在します。

(2)「 新しい学び」はシームレス

臨時教育審議会以降の「新しい学び」は「生涯学習」という発想をベースにしています。「生涯学習」には小さな子どもから高齢者まで、つまり、生まれてから死ぬまでの間、人は学び続け変容し続けるという基本的な考え方があります。一方でこのようなことが強調されるのは、人は学ぶことや変容することをやめる、ないしはそのようなことを意識的にしなくなるという現実があるらです。

小中高校の学習活動は「生涯学習」の基盤を作り上げるものです。学ぶことへの意欲や学び方を習得するということ。自律性や社会性というものも、自分を持った個人が社会のなかで自分自身の体験や他者との交流を通じて学び続けるための基盤として理解できるでしょう。

小中高校の「学び」もまた「生涯学習」であるとすれば、人生が間断なく続くように、「生きる力」を育成する学習活動も、シームレスでなければならないと考えられます。このような観点から考えれば吹き抜けモデルの探究活動の方が推奨されるべきであるというのはよくわかることです。

もともと「二階建て」モデルが説得力を持つ背景には現行の知識詰め込み型の受験が存在します。現在の受験は勉強しただけ得点が上がる「銀行型」の勉強(文献1)の典型例です。受験勉強に割く時間が多ければ多いほどに点数が上がる……というのは誇張ですが、受験にはかなりの準備が必要なのは事実です。

しかし、この大学受験が2020年に大変革を迎えようとしています。センター試験が新しくなり、記述問題の導入など単純な「知識・技能」の暗記だけではなく、「知識・技能」の応用や「表現・判断」まで測れないかという試みがなされています。また、国立大学の二次試験は従来、記述問題が中心でしたが、これからは面接や調査書、志望理由書なども加味した学習への意欲や態度を測るものに変更するように、と求められています。

このような入試改革は「生きる力」を学校現場に浸透させるための方法として考えられます。つまり、「生きる力」を測る入試方法として新しいセンター試験や二次試験が作られようとしているということです。このような試みが成功すれば「生涯学習」を念頭においた「生きる力」をベースにしたシームレスな学びの接続が可能になるでしょう。

(3)カリキュラムをどのように作り直すのか?

「生きる力」を育む目的で生まれた教科が「総合的な学習の時間」であり、その時間の学習方法として編み出されたのが「探究」。

このように考えるなら、探究活動は3年連続でやり遂げた方がよいとなるでしょう。「受験前日にレポートの締め切り」がある、となると試験準備はできませんから、3年生の夏ごろまでには一定の学びのピークを迎えることになるかもしれません。

問題は「二階建て」か「吹き抜け」かという単純な話ではありません。「吹き抜け」モデルを採用したとき、1、2、3年生の連続性のなかでどのように学習者を成長させるのかということ、さらには「生きる力」を育成するアクティブ・ラーニングの方法をどのように他の教科に散りばめながら「総合的な学習の時間」に接続するのか、そして、それを新しい大学入試にどのようにして活かすのかということなのです。もちろん、「二階建て」モデルでも新しい環境への適応は可能かもしれません。しかし、環境が変化することは新しい適応の仕方を求められるということです。新センター、そして新学習指導要項がやってくるなかで各学校ではカリキュラムの見直しが求められるのです。

1) パウロ・フレイレの「銀行型教育」を参照。パウロ・フレイレ(2011)『被抑圧者の教育』三砂ちづる訳、亜紀書房。
 被抑圧者の教育学―新訳

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