考察を厚くしよう―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】16

考察を厚くしよう―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】16

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)整理された情報から「考察」を生み出す

情報整理ポスターはあくまでも情報をまとめたものにしか過ぎません。そこには学習者自身の考え、つまり、「考察」は入っていないのです。調べ学習を学びとして実質化するためにはこの考察が重要です。

考察を厚く充実させるのは非常に難しいことです。そもそも「厚い」とはどういうことを意味するのでしょうか。「厚い考察」があるなら当然ながら「薄い考察」があってしかるべきです。

「薄い考察」は調べた内容や実験結果からわかったことを羅列している程度の考察です。調査や実験の「まとめ」のようなものです。あるいは、ごく一般的な感想を述べたものもこれにあたるでしょう。

たとえば、地域の水質汚染について調べ学習をした学習者が、最後の考察に、「水を大切に使わないといけないと思った」と書いていた。これは「薄い考察」といえます。このようなことは調べ学習をしなくとも理解できることであり、あまりにも一般的なことです。

一方の「厚い考察」はどういうものでしょうか。地域の水質調査という調べ学習においては、水質が低下して悪化している原因が何であるのか、調査や実験の結果から自分なりの仮説が提示できていたら、「厚い考察」と呼べるでしょう。それは調査や実験という学習活動の集大成的なものであり、個々の知識や成果が深く結びついた考察となります。

(2)「厚い考察」を書くレッスン

調べ学習を行ううえで考察が薄くならないように注意を払わないといけません。しかし、薄い考察を厚い考察にするために段階的な指導を意識しないと学習者としても困ることになるでしょう。

ここで「厚い考察」を可能にするためのレッスンが考え出されるわけです。前著『探究カリキュラム・デザインブック』で、探究には「準備段階」があると書きました。厚い考察を書くための準備段階としてどのようなことが可能でしょうか。

たとえば、探究の準備段階として、中高生向けの学術書を輪読する授業を行うとします。そこでは学習者は自分の担当するテキストの箇所を1 枚のレジュメにまとめます。

その際、最後の項目として考察を設けます。この考察では本を読み、レジュメにまとめたことから何がわかったかを書きます。そのうえで本を読んだ感想や考えたことをつづけて書きます。1 つ目は「まとめ」であり、2 つ目以降が「自分の考え」ということです。

レジュメについて教師は評価を行います。「考察」に関しては、複数行にわたって詳しい内容が書かれているのか、複雑にさまざまな要素が盛り込まれているのか等を評価基準とするとよいでしょう。

このようにすれば、学習者はある情報を整理したならば、その整理した情報から自分なりの考えを導き出す習慣をつけることができます。

次の段階としてはそこで得られた感想や考え(考察)をもう1 枚のレジュメとして展開するよう指導します。この段階での考察は調べ上げたものから離れていないこと、そして分量も多いことが1 つの基準となっています。このようにすれば、単に情報をまとめるだけではなく、そこから自分なりの気づきや発見、仮説を導く訓練が行えます。

(3)教科のなかでも「厚い考察」を

以上のような厚い考察を書くための指導は普段の教科教育(とくに文社系)にも利用できるでしょう。たとえば、現代文の授業で教科書の本文の要約をした後に、「何がわかったのか」とともに「そこからどのような発見や気づき、仮説を思い浮かべたのか」を問うのです。ポイントは「厚さ」です。最初は文量を目安に指導するだけでよいでしょう。何行以上、何文字以上を徹底させます。そのうち、2 つの文章を読ませて、両方の文章を要約、そのうえで「2 つの文章を読んで何がわかったのか」、「2 つの文章の読み比べからどのような発見や気づき、仮説を思い浮かべたのか」を問うのです。

こういうと文章の選定に気を使うかもしれません。しかし、「ある文学作品についての2 つの論評」のように1 つの対象についての異なる意見や類似した意見や関連性をもったもの等シンプルに考え、選定すればよいのです。

このような「考察」を書くためのレッスンは社会科や英語科でも可能な取り組みです。文章を読み要約し、わかったことをまとめさせ、そこから自分なりの考えを書かせるという方法です。

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