「新しい学力」とはなにか―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】2

「新しい学力」とはなにか―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】2

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)文部科学省が提唱する「学力」

「生きる力」が小中高校の学習のなかに取り入れられてから10年以上が経っています(文献1)。現在も文部科学省は「学習指導要領の基本的な考え方」として「生きる力」を標榜しています。これは「確かな学力」、「豊かな人間性」、「健康・体力」の3つの部門から構成されています(文献2)。

生きる力

出典:文部科学省初等中等教育局教育課程課「現行学習指導要領・生きる力」

・確かな学力…基礎的な知識・技能を習得し、それらを活用して、自ら考え、判断し、表現することにより、さまざまな問題に積極的に対応し、解決する力

・豊かな人間性…自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの

・健康・体力…たくましく生きるための健康や体力

さらに2016年度に発表された中央教育審議会の「学習指導要領の論点整理」では「育成すべき資質・能力」として次の三要素が提示されました(文献3)。

育成すべき資質・能力

出典: 中央教育審議会 平成27年11月20日 教育課程部会 幼児教育部会 資料4

・何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)…個別の知識や技能など

・知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)…問題発見・解決や、協働的問題解決のために必要な思考力・判断力・表現力

・どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)…学びに向かう力や自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考のプロセス等を客観的に捉える力など、多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会作りに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性など

文献1) 1996年度中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」に登場。2002年度より実施の学習指導要領で採用。 

文献2) 文部科学省初等中等教育局教育課程課「現行学習指導要領・生きる力」 

文献3) 2015年度 文部科学省教育課程企画特別部会「教育課程企画特別部会 論点整理」

(2)さまざまな「新しい学力」の登場とその背景

「生きる力」は日本の教育行政が思いつきで作ったものではありません。じつは「生きる力」に似た「新しい学力」は世界中で議論されているのです。

たとえば、日本国内でも経済界の議論をもとに経済産業省がまとめた「社会人基礎力」(文献4)や国立教育政策研究所の「21世紀型能力」(文献5)などがあります。

世界に目を向ければ、日本の教育のあり方に大きな影響を与えたP I S A(OECD生徒の学習達成度調査)の基本的な枠組みとなる「キー・コンピテンシー」(文献6)、あるいはATC21Sの「21世紀型スキル」(文献7)、そして普遍的な学力という意味での「ジェネリックスキル」に関する議論(文献8)が存在します。

キー・コンピテンシー

出典: 中央教育審議会 平成27年11月20日 教育課程部会 幼児教育部会 資料4

1 社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力(個人と社会との相互関係)

2 多様な社会グループにおける人間関係形成能力(自己と他者との相互関係)

3 自律的に行動する能力(個人の自律性と主体性)

社会人基礎力

出典: 経済産業省「社会人基礎力」とは

1 前に踏み出す力主体性・働きかけ力・実行力

2 考え抜く力課題発見力・計画力・創造力

3 チームで働く力発信力・傾聴力・柔軟力・状況把握力・規律力・ストレスコントロール力

21世紀型能力

1 実践力…自律的活動力/ 人間関係形成力/社会参画力/持続可能な未来作りへの責任

2 思考力…問題解決・発見力・創造力/論理的・批判的思考力/メタ認知・適応的学習力

3 基礎力… 言語スキル/ 数量スキル/情報スキル

 21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち

このような学力が登場した背景には、国際社会の変化というものがあります。

インターネットを代表とする情報メディアの発展により、国境を越えた人や情報などの交流が容易になりました。いわゆる「グローバル化」です。

このなかで知識の意味合いが変わり始めました。これまでは教科書に載っているような知識は一定の期間、確固たる価値を持っていました。しかし、情報が国境を越えて激しくやり取りされるなかでは、つねに新しい知識が生み出され、既存の知識が陳腐化していくのです。

このように知識が世界中をかけめぐり、新しいものが生まれ、人びとの生活を左右する社会を「知識基盤社会」(文献9)といいます。この社会では単に知識を詰め込むだけでは意味がなく、新しい知識を自ら獲得しながら、自分なりの知識を生み出し、課題や問題にチャレンジすることが重要になってくるのです。

文献4) 経済産業省経済産業政策局 産業人材政策室「社会人基礎力」 

文献5) 国立教育政策研究所(2013)『教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書5 社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理』 

文献6) 文部科学省「OECDにおける『キー・コンピテンシー』について」 

文献7) P. グリフィン・B. マクゴー・E. ケア編『21世紀型スキル─学びと評価の新たなかたち』 三宅なほみ監修、益川弘如、望月俊男編訳、北大路書房
 21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち

文献8) National Centre for Vocational Education Research(2003)Defining Generic Skills: At a glance 

文献9)『平成18年版 文部科学白書』では「一般的に、知識が社会・経済の発展を駆動する基本的な要素となる社会」とされる。

(3)「 新しい学力」の特徴

このような社会背景のなかで必要とされる能力は大きく2つの特徴を持ちます。1つは科学的論理的に物事を考え、それに裏付けられた「問題解決能力」を持つということです。

もう1つは(問題解決をするうえでも重要になってくるのですが)ヒト・モノ・カネの動きが活発になってくるグローバル社会において重要になる、異なる背景や物の見方・考え方を持つ他者とコミニケーションする力、いわゆる「社会性」というものです。

この「社会性」は単に仲間内で楽しくしゃべるということではありません。そうではなくてグローバル社会において他者とつながりながら、問題を解決し新しい価値を生み出す力なのです。

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