*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の会員限定ショップへのご案内があります
(1)「 総花主義」にならないように
探究カリキュラムを作るときの落とし穴。それは授業にいろいろな要素をつめ込んでしまって何をやっているのかわからなくなるということです。
科学に興味があるというわけではない高校生たちを対象としている場合、同じことばかりやっていては飽きてしまう。先生たちはあの手この手で学習者の興味を引くために授業をイベント化していき、何が何やらわからなくなってしまう。このようなことが多くないでしょうか。
たとえば、外国人との交流活動があったかと思えば調べ学習を始めたり、スキルトレーニングとしてレポートの書き方を学んだと思ったら突然、実験を行なったり……。そのようなことが1年間、目白押しになって最後の集大成として何があるのかと思ったら、なぜか演劇をしたり。
たしかに一個一個の活動は興味を惹かれるものです。しかし、1年間を通して、あるいは2年間、3年間を通してこの学校が学習者にどんな力をつけたいのかわからない。このようなカリキュラムに出合うことがたまにあります。
(2)カリキュラムは一貫性を持って
このような総花主義を回避するために、カリキュラムをデザインするときに自分たちは学習者をどのように成長させたいのかを考えます。それは学習者にどのような力をつけたいのかということです。
このようなことを含めたカリキュラム設計上の方針を「カリキュラム・ポリシー」と呼ぶことがあります。カリキュラム・ポリシーを明確にすることにより授業を一貫したものとして作り上げることができるのです。
たとえば、小さな科学者の養成を目的とした研究指定校(S S Hなど)は、1年生のときにはライティングや実験の練習などのスキルベースのトレーニングを行ないます。そして、2年生や3年生においてはグループや個人で特定のテーマで「課題研究」を行ないます。
スキルトレーニングは全体で一斉に行ないます。しかし、課題研究はいわゆる大学のゼミナールのようなものとして、個々の先生たちのもとで授業が行なわれるのです。ゼミのなかで探究活動を行なうためにどのような力をつけなくてはいけないのか。その観点から1年生のカリキュラムが組まれていくことによって竹を割ったようなスッと筋の通った全体の一貫性が確保されるのです。
(3)「 ポリシー」を持とう
「カリキュラム・ポリシー」とはもともとは高等教育の用語です。
最近の学校教育改革では大学教育(高等教育)がリードする役割を演じています。「アクティブ・ラーニング」の語もそうですし、学習指導要領改訂の背景にいる教育学者にも高等教育研究者がいます。
大学教育改革を行なったとき、教育学者たちは経営者(理事長や学部長)に対して3つのポリシーを明確にするように言いました。まず、どのような学生を受け入れるのか=合格基準としての「アドミッション・ポリシー」、次に、どのような基準で学位を授与するのか=卒業基準としての「ディプロマ・ポリシー」、最後にどのような教育をどのように実施するのかという「カリキュラム・ポリシー」。
前項に示した「カリキュラム・ポリシー」は「ディプロマ・ポリシー」である「つけたい学力」を含めたものとしています。
「アドミッション・ポリシー」や「カリキュラム・ポリシー」、「ディプロマ・ポリシー」は学校経営上、明確にするとよいでしょう。そうすれば入試問題の作成も、卒業認定も、授業カリキュラムも一元的に整理することができるからです。ただし、義務教育である小中学校では「アドミッション・ポリシー」は不要かもしれません。