どうして、教育「改革」なのか―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】1

どうして、教育「改革」なのか―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】1

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)「 新しい学び」と「生涯学習」の時代

2016年度・2017年度と立て続けに、新しい学習指導要領が発表されました。今回の学習指導要領改訂では「アクティブ・ラーニング」(主体的・対話的で深い学び)など、教育方法にまで言及された、かなり踏み込んだ内容となっています。

また、2020年度に新しいセンター試験(大学入学共通テスト)が始まり、教育改革のムードが本格化していきます。

このような近年の教育改革の流れは1980年代の臨時教育審議会(政府の諮問機関)から始まったと考えられます(文献1)。そこでの議論は「教育の自由化」や「生涯学習」という従来なかったテーマを示し、後の「生きる力」という「新しい学力」の提案へとつながっていきました。

このような教育改革は、それまでの「詰め込み教育」への反省とともに、経済成長の一段落した日本が今後、いかにしてグローバル社会のなかで成熟していくのかという問題を背景にしていたと考えられます。

「新しい学び」を考えるうえで重要な概念として「生涯学習」というものがあります。この言葉は1965年、ユネスコのポール・ラングランが提唱したものです。

それまでの教育は小学校から大学までの極めて限られた期間を対象としたものでした。しかし、これからの教育はそれこそ「赤ちゃんから高齢者まで」、つまり、「生まれたときから死ぬまで」の「生涯発達」(文献2)をターゲットとする。これが「生涯学習」の考え方です。

それは「受験のための勉強」から「生きるための学習」、「働き、市民として生活をするための知識や技術、態度を身につける教育」へと変化するものでした。このような「生涯学習」の基盤となる力が今の学校教育のベースになっている「 生きる力」と呼ばれる学力なのです。

文献1) 寺脇研(2013)『文部科学省「三流官庁」の知らざる素顔』、中央公論新社や渡部蓊(2006)『臨時教育審議会─その提言と教育改革の展開』学術出版会参照 
 文部科学省 - 「三流官庁」の知られざる素顔 (中公新書ラクレ)

 臨時教育審議会―その提言と教育改革の展開 (学術叢書)

文献2) 無藤隆・やまだようこ責任編集(1995)『講座 生涯発達心理学 生涯発達心理学とは何か─理論と方法』金子書房などを参照
 生涯発達心理学とは何か―理論と方法 (講座 生涯発達心理学)

(2)「 生涯学習」と「生きる力」

文部科学省は「生きる力」を3つの側面から定義しています(文献3)。1つは「確かな学力」、次に「豊かな人間性」、最後に「健康と体力」です。

出典:文部科学省初等中等教育局教育課程課「現行学習指導要領・生きる力」

ここでいう「確かな学力」とは教科書の内容を丸暗記する力ではありません。知識や技能を活用し、課題を見つけ解決する力も含まれています。また、学ぶための意欲や主体性もここに入ります。

「豊かな人間性」は自律して生きていくための力や他者との協調性、共感性を意味します。簡単に言ってしまえば自分を持った大人になるということ、そして他者とコミュニケーションする力を持つということなのです。

このような「生きる力」というのは教科書を丸暗記したり、ドリルを何度も練習したりしてつく力には思えません。

そこで登場したのが「アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)」という学習方法、そしてその評価や運営管理を含めた「カリキュラム・マネジメント」なのです。この学習方法を採用するというのは「他者との学び」など、これまでの学校現場では重視されてこなかった活動を教室の中心に導くことを意味します。

「アクティブ・ラーニング=主体的・対話的で深い学び」は「生きる力」をつけるための学習方法であり、「カリキュラム・マネジメント」は、ほんとうに子どもたちにその学力がついているのかを検証しながら、カリキュラムをつねに見直し修正していく営みなのです。

文献3) 文部科学省初等中等教育局教育課程課「現行学習指導要領・生きる力」

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