「探究的な学習」とは何?―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】5

「探究的な学習」とは何?―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】5

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)出発は「自由研究」

さて、「新しい学び」一般の説明はここまでとして、本連載のメインテーマである「探究的な学習」に目を向けましょう。

探究は小中高校で実施される「総合的な学習の時間」における学習活動のことを言います。現行の学習指導要領の説明は、いささか抽象的で捉えにくいところがあります。

そのためか、「探究的な学習」「探究活動」と銘打ってさまざまな実践が生まれてきましたが、まとまりのあるイメージがうまく出来上がっていなかったのが現状です。

現在、「生活科」や「総合学習」の延長にこの活動が位置づけられていますが(文献1)、やや理念的かもしれません。もう少し具体的に捉えられる「比喩」はないでしょうか。

もともと、日本における「総合学習」の源流は大正時代の「新教育」や「自由教育」という、経験を重視した教育運動です。たとえば、東京にある自由学園という学校では「食育」など、「生活」を軸とした経験主義教育が今も息づいています。

大正時代にも知識詰め込み一斉授業ではない、「新しい学び」に似た教育運動があったのです。「大正自由教育」は今も継承され、年季の入ったカリキュラムが実際に存在します。

このような「自由教育」は戦後、「詰め込み教育」が開始されるまでのしばらくの期間、再び注目を集めます。「コアカリキュラム」などの教育運動が活発になるなかで、「学習指導要領(試案)」のなかに「自由研究」という授業が登場します(文献2)。

この「自由研究」という授業、内容は多岐にわたるのですが、そのなかに現代の「夏休みの自由研究」を彷彿とさせるような、子ども自身がテーマを見つけてそれについて研究を行なう、まさに探究活動が存在したのです。

文献1) 浅沼茂 (編纂)(2008)『「探究型」学習をどう進めるか─学習の創造的発展と問題解決力の育成』教育開発研究所や福岡教育大学附属小倉小学校(2010)『自己を磨く子どもを育てる─探究型学習のススメ』明治図書出版など。 
 
「探究型」学習をどう進めるか―学習の創造的発展と問題解決力の育成 (教職研修総合特集 新教育課程の学習プロセス No. 3)

 自己を磨く子どもを育てる―探究型学習のススメ

文献2) 山本隆大・野田敦敬(2012)「昭和22年度学習指導要領(試案)教科『自由研究』から見る探究活動の課題について」『愛知教育大学研究報告 教育科学編(61)』、pp.1-8。

(2)「子ども版 研究活動」としての「探究」、そして「高大連携」

文部科学省により2002年度から始まったS S H(スーパーサイエンスハイスクール)事業では「小さな科学者」つまり、将来の科学者育成のため、指定された学校に助成金が支給されています(文献3)。

これによって、高校現場に高額な機材や大学教員・院生の補助が入るようになり、「自由研究」は文字通り大人顔負けの「研究活動」へと昇格することになったのです。

現在では理系の学会の多くにジュニアセッションや高校生セッションが併設され、探究ポスターを前に子どもたちが一流の研究者とセッションを行なう、探究の発表の場が生まれています。こう考えたとき、探究の最前線は子ども版、研究活動と呼べる状況になっていることがわかります。

各地のSSH指定校を中心に探究活動を軸にした高校と大学の連携、つまり、「高大連携」も進んでいます。たとえば、化学の探究をした生徒がその分野の専門家のもとで更なる調査を行なうために指導を受けるなどです。

また、組織的に、各研究室に配属して1人ひとりの生徒に大学の指導教員をつけ、探究を行なう取り組みもあります。大学側が探究発表大会を主催して、研究者と生徒たちの出会いの場をセッティングすることもあります。

学校現場にとって研究活動は未知のものですが、ニーズのあるものです。一方の大学にとっては普段行なっている仕事です。高大連携の糸口として探究活動は実施しやすい取り組みなのです。

このような探究活動ですが、現在は高校2年生でやめてしまう学校もあります。高校3年生では「探究」をしないというのです。これは受験との関係があります。大学受験の3年生は「探究」ではなく「受験勉強」をせよ、ということのようです。

しかし、多くの学校では、3年連続の活動が展開されています。これは探究活動をはじめとしたアクティブ・ラーニングによって培われた学力を測りたいという新しい「高大接続」(新しいセンター試験)の趣旨に合致するものです(文献4)。

文献3) 科学技術振興機構 理数学習推進部「スーパーサイエンスハイスクール」

文献4)高大接続システム改革会議(第13回)「最終報告(案)」 


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