「アクティブ・ラーニング」とは何か―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】3

「アクティブ・ラーニング」とは何か―シリーズ【アクティブ・ラーニングから探究的な学習へ】3

*本連載は、がもうりょうた氏の『「探究」カリキュラム・デザインブック』(ヴィッセン出版)、『探究実践ガイドブック』(七猫社)を再編したものです。『「探究」カリキュラム・デザインブック』に関してはヴィッセン出版より掲載の許可を得ております。ページの下に両著作をお求めやすい特別価格で販売する七猫社の​会員限定ショップへのご案内があります

(1)突然やってきた「 アクティブ・ラーニング」

「新しい学力」を育成するための学習方法が「アクティブ・ラーニング」です。

すでにアクティブ・ラーニングに関してはさまざまな定義が存在します。よく利用されるのは中央教育審議会答申の用語集(文献1)にある次のものです。

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、 教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。

ここでは、「アクティブ・ラーニング」を「能動的な」「参加を取り入れた教授・学習法」としています。

文献1) 2012年度文部科学省中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて─生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ─」用語集

(2)「 主体的・対話的で深い学び」の登場

一方、アクティブ・ラーニングを小中高校に導入するとなって検討が重ねられるなかで、アクティブ・ラーニングを「主体的・対話的で深い学び」とし、「主体的な学び」・「対話的な学び」・「深い学び」の3つの視点から学習方法を考える方向が示されました(文献2)。

3つの学び

出典:文部科学省主体的・対話的で深い学びの実現について(イメージ)

・主体的な学び…学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連づけながら、見通しを持って粘り強く取組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。

・対話的な学び…子供同士の協働、教師や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自らの考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。

・深い学び…習得・活用・探究の見通しのなかで、教科等の特質に応じた見方や考え方を働かせて思考・判断・表現し、学習内容の深い理解につなげる「深い学び」が実現できているか。

「主体的な学び」・「対話的な学び」はなんとなく理解できますが「深い学び」というのはよくわかりません。ともすれば「ディープ・ラーニング」という人工知能の学習方法と間違ってしまいそうです。意味としては、新しく知った知識を既存の知識や体験と結びつけて理解することや、単純な記憶ではなく、身近な問題に適応するなど、より複雑な心の動きを伴う学びを指します。

従来の学校教育でいう「思考・判断・表現」あるいは知識活用と結びつきのある考え方です。これは「主体的・対話的な学び」をグループ・ワークをしただけ 、ディベートをしただけ、とかたちだけで終わらせないようにする「担保」の役割と考えるとよいでしょう。

アカデミックな見知からも補足をしましょう。大学教育研究者の溝上慎一はアクティブ・ラーニングを、

一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う(文献3)

と定義しています。

この定義で注意したいのが「認知プロセスの外化」です。体験学習理論では「体験」の後、「振り返り」を行なうことになります(文献4)。体験を通じて「感じたこと、考えたこと=認知プロセス」を「振り返り=話したり書いたりして外化する」ことを強調しています。これによって体験から知識を生み出すサイクルを作るのです(文献5)。

文献2) 2016年度 文部科学省 教育課程部会 高等学校部会(第2回)「主体的・対話的で深い学び(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善)について(イメージ)(案)」 

文献3) 溝上慎一(2014)『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂、p.7。
 アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換

文献4) Kolb, D . A .(1984) Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Developmen t , Prentice Hall 
 Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development

文献5)「 体験」から「知」を生み出す「省察」という概念に着目したショーンの議論を参照。
ドナルド・A. ショーン(2007)『省察的実践とは何か̶プロフェッショナルの行為と思考』柳沢昌一・三輪建二訳、鳳書房。
 省察的実践とは何か―プロフェッショナルの行為と思考

(3)「 生きる力」を実質化するために大切なこと

アクティブ・ラーニングを小中高校で導入する方針を文部科学省が打ち出すなか、さまざまな書籍が登場してきました(文献6)。あふれる情報が混乱を生み出し、道標として「主体的」「対話的」「深い」という3つの学びが生まれました。

とっつきやすい3項目ができたから、これらをチェックシート化すればいい。そんな安直なことを考えてはいけません。

本質は教育の改善です。自分たちの学校の教育をより良くしようと考えたとき、教師はさまざまな方法を授業に使います。現在の学校教育は、「生きる力」を子どもたちが身につけるため学びを深めてゆくことが必要とされています。

このことを踏まえるなら、生きる力を実質化する、より良い教育を行なおうという教育改善の発想こそがアクティブ・ラーニング=主体的・対話的で深い学びを導入する際の根本姿勢なのです。

「コミュニケーション能力」を座学で身につけることは可能でしょうか。「良いコミュニケーションとはどういうものか」を丸暗記することで社会性は高まるでしょうか。……難しいです。

だからといって、グループワークという方法をただただ、導入したなら、ほんとうにコミュニケーション能力が高まるでしょうか。

ここで重要なことは、学習者が社会性を獲得できるように、「対話的学び」としてグループワークをどのように構築し、教師がコーディネートできるのか、「新しい学び」をいかに実質化するのかということです。

そのように考えたとき、「アクティブ・ラーニング=主体的・対話的で深い学び」を導入するというのは特定の方法を導入するものでもなく 、また、特定の指導案を真似すればよいというものでもないことがわかります。

重要なことは学校全体の学びにおいて「生きる力」を実質化するため、カリキュラムをデザインし、マネジメントする努力を、個々の教師、そして、学校全体が負うということなのです。

文献6) 西川純(2015)『すぐわかる! できる! アクティブ・ラーニング』学陽書房や小林昭文(2015)『アクティブラーニング入門―アクティブ・ラーニングが授業と生徒を変える』産業能率大学出版部、など。
 すぐわかる! できる! アクティブ・ラーニング

 アクティブラーニング入門 (アクティブラーニングが授業と生徒を変える)

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